「俺は本当は人を殺しているのかもしれない」と悩む日々|『人を呪わば穴二つ』恨みすぎて脳がバグってしまった顛末

そのほか

だが、そんなことをしたってなんの得もないことだけは確かだった。

 

このままやり過ごすのが得策……だけど、やっぱり納得がいかない。
理性で殺意を抑えきれない。

 

腹の底から、
「殺したい!!」
とグツグツと憎悪が湧き上がってくる。

 

そこで僕がどうしたかというと、
「想像の中で編プロの社長を殺そう」
と思ったのである。

 

つまり、呪いであり、不能犯だ。
想像の中で殺すのなら、罪にはとわれまい。

 

どの道、リアルに殺すわけではないのだから、日本刀でまっぷたつにしてもいいし、マシンガンを乱射して蜂の巣にしてもいい、クラスター爆弾で編プロごと吹き飛ばしてもいい。

 

だが、なぜかそれでは脳が納得しなかった。

 

「もっとリアルに殺さないと満足できない」

と脳は僕に言った。

 

言われた僕は、その日から日夜殺人の計画を練ることになった。

 

殺人小説ではよくトリックを使って、警察や探偵をあざむこうとするが、それはあまり得策ではない。

できれば死体は誰にも見つからず、そもそも事件にならない方がいい。

 

ただまず殺すためには、二人きりで会う必要がある。しかし絶縁してしまっている。
「どうしたら良いだろうか?」
と考えていたら、社長から、共通の知り合いを挟んで、

「関係を修復させて、仕事を頼みたい」
という連絡が入った。

 

僕は、もう二度と関係を修復させるつもりはなかったが、それでも僕が

「会いましょう」
と言えば一度は会えるということではある。

 

その際、僕の自宅へ呼び、なんとか殺害できないか? と考える。

殺害方法はなるべく血が飛び散らない方法が良い。鈍器で殴り殺そう。
そしてここからが問題だ。
死体を未来永劫見つからないように、処理しなければならない。

 

まずは死後硬直がはじまる前に、身体を体育座りのような形で折り畳み、あらかじめ用意しておいた荷締めベルトでキツく縛る。

 

そしてその形で布団圧縮袋に入れて空気を抜き、腐敗臭が漏れるのをなるべく防ぐ。
その状態で大型のポリカーボネート製のプラスチックボックスにすっぽりと入れる。
そして当時載っていたスーパーカブのリアキャリアにしっかり固定する。

 

その社長は体重70キロはあったから、僕の体重や荷物と合わせると150キロを超える。かなり厳しいが、そもそもタンデムができるバイクだったのでなんとかなるだろう。

ただ、ノーマルのリアキャリアでは不安なので、大きいキャリアに付け替えよう。

自転車

 

死体の処理は、以前取材した埼玉にある廃鉱山が良いのではないだろうか?
かなり深い穴がいくつもあいていて、そこに落としてしまえばまず見つからないはずだ。

死体遺棄へ現場に行くのに、自分の携帯電話を持っていきたくない。
カーショップで、ポータブルナビを調べてみると数万円だった。当日はそのナビを使って移動して、家に帰る前に捨ててしまおう。そうすれば、警察にナビから埼玉に行っていたことがバレることはないだろう。

 

そうやってつらつらと毎日毎日、架空の殺人計画を練った。実際に埼玉までバイクで行ってみたり、ホームセンターに行って殺人に必要な材料を調べに行ったりした。

 

ただ、もちろん全て空想の話である。
理不尽な扱いをされて納得できない自分の気持ちを慰めるための、みじめな一人遊びだ。

 

だが段々脳みそは変な反応をしはじめた。

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