凍てついた眼差し|統合失調症の母に虐待された「あの子」の目

障害者ルポ

A母子が施設を出ていく日

A母は私からの「電波攻撃」のひどさ、それに対応してくれない施設に嫌気がさして、母子自立支援施設を出ていくこととなった。引っ越しの日にたまたま施設の玄関にいた私は、A母に鬼のような形相でにらまれた。思わず2歳の息子を背後に隠すほど、殺気立った目をしていたA母だった。そして、その後ろには、いつものように無表情で、真っ黒な目をしたA子がいた。

 

A母はその日、職員や私をにらみつけた後、赤いヒールをかつかつとフロアに響かせて、振り返ることなく出て行った。その後ろを、助けを求めるような、無気力な目で、A子は振り返りながら出て行った。私にはA子の真っ黒な無表情な目がとても印象に残った。

 

A子の「目」の謎

退所後に色々な取材をしていくうちに、A子の独特なまなざしが親に虐待された子特有の「凍てついた凝視」というものだと分かった。本当は愛されたい親、頼りたい親に虐待された子は、絶望し、表情を失くしていく。その奥底には「愛されたい」という強い気持ちが隠れているという。

 

今ではヤングケアラーという言葉もメジャーになったが、当時のA子はそういう状態だったのかもしれない。だけど、あの当時、周りの大人たちは何もできなかった。私は今でもあのどこまでも真っ黒で、何を考えているか分からないA子の瞳を思い出す。今ではA子は成人しているかもしれない年齢だ。A母がどこかで医療につながり、A子も元気に暮らしていると願わずにいられない。

 

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