多摩川の河川敷で夫婦で暮らすホームレスにインタビュー。仕事、電気、畑を持っていても、それらは一瞬でなくなってしまう。

そのほか

しかしそれにしても立派な家だ。
僕は取材当時は8畳の1Kのアパートに住んでいたが、ずっと大きかった。

「電気はあるんだ。発電機を置いてるからね。テレビもあるし、電子レンジもあるよ。冷蔵庫はずっと電気をつけていなくちゃいかんから、持てないね」

と言う。驚いているとさらに、もっと驚く情報を聞かせてくれた。

「実は一人で暮らしてるんじゃねえんだ。3~4年前にどっかのババア拾って来て一緒に住んでんだよ、はっはっは」

と楽しそうに笑う。

「うちのババア、道楽がねえから毎日、銭湯行ってるんだ。風呂屋の客みんなと知り合いになっちゃってさ。『今日はあの人が来るから行かなくっちゃ』だってさ。参っちゃうよ。俺も楽しみはないからさ。こうやって、昼間から酒をちびちびと飲んでいるわけだ」

と、酒の入ったグラスをひょいと上げた。
ちなみに、今日は午前中は工場の仕事で、帰ってきた所だそうだ。労働後の酒と煙草は何より美味いそうだ。

「まあその日暮らしだけどね。もう70前だけど、それでも地道にやれば田舎に帰れるからね。あ、俺、年に一回は、田舎に帰ってるんだ」

そう言えば僕はもう3年くらい実家に帰っていない。毎年帰るとはなかなかちゃんとしている。田舎の場所はどこだか聞いてみる。

「沖縄だよ。いや遠くないよ(笑) 飛行機乗りゃ1~2時間だ。ここからは羽田空港も近いからさ。
まだお袋も兄弟も全員元気だから。一ヶ月も電話しないと向こうから、必ず電話がかかってくるんだよ。心配症だよ」

と言うと、胸のポケットから携帯電話を取り出してみせた。

今までに何百人ものホームレス生活をしている人に話を聞いてきたけど、おじさんほど楽しそうに生きている人もいなかった。

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