川の方を見ると、人がザルで泥をすくっているのが見えた。
何がとれるんですか? と聞くと、
「シジミ!!」
と張りの良い声がかえってきた。大柄でワイルドな風貌で、かなりかっこいいお爺さんだった。
「普段はこんな寒い日はシジミはとらんのだけどな。今日は欲しいっていう人が来たから、とってあげたのよ。よく遊びに来る人。いつも、ビールとか持ってきてくれるからな」
というと東屋の中に入っていった。
遠慮せずにあたって行き、と言われ入ると、心地よい暖かかった。
床にはコンクリートブロックでかまどが作られていて、炭が燃えていた。
「ここはよう色々なお客さんが来るのよ。冬は火をあたる場所にしてるの。この炭は、バーベキュー会場で拾ってきたヤツなんや。みんなほかしていくやろ。それを洗って、干して。こまいのばっかりやけど、それがまたいいんよ。あんまりハネんし、長持ちするしな。でかいのはブワって一気に燃えてしまうやろ」
そう言いながら、鉄棒で炭をかき回す。
外から、よたよたっとまん丸い犬が入ってきて、おそらくいつもいるのであろう場所に座った。
「今、淀川のシジミは話題やからな。昔は『淀川のシジミなんか食えるか!!』って言ったもんやけど、今はいい料亭で出したりするよ。だけど、シジミはとった後にちゃんと泥を吐かせないといかん。あと、貝毒って言うてとれん時期があるんよ」
貝毒とは、有毒プランクトンを貝が食べて、毒化してしまうことを言う。4~5月ぐらいの季節に発生することが多い。
「その間は誰も取らんだろ? だからぐっと大きく育つんや。シジミはな、小分けにして冷凍庫に入れるのがいいのよ。凍らせてしまうのよ。すると仮死状態になって、いつでも美味しく食べられるんよ」
と火をかき混ぜながら語る。