「妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話」|作者ズュータンさんに聞くマルチ商法の恐怖

そのほか

洗脳

ズュータン「勧誘された人の中には、マルチ商法で成功するのが難しいことを論破したみたいな人もいます。ところが理論上はうまくいくはずはなくても、そういった集まりに行くと、実際に成功したように見える人たちがそこにたくさんいるわけです。すると、もしかしたら自分も……と思ってしまう。さらに、その人たちと一緒にいれば成功に近づくように感じるかもしれません。また、夢を追う目標ができると、マルチのコミュニティは励ましてくれたりたまに叱ってくれたりして、親密な関係が構築される。居場所としての魅力もあるでしょう。もし自分もその場にいたら、成功しているように見える人たちと、同じようになれるかな? と思ってしまったでしょう。そして成功できるかもと思い込むと、それを補強するような情報ばかりを仕入れてしまうでしょうしね」

 

理屈より、親しい人の言うことを信頼する人が多いのを、上手く利用しているよう。それゆえ、配偶者の影響でマルチに染まる人もたくさんいるのだとか。

 

ズュータン「もちろん、家族ぐるみで活動したからといってうまくいくわけではないので、中にはうまくいかないまま長く続けている主婦の方とかもいます。金銭的にも人間関係的にも無理が出てくるので、そういう人からどんどん悲惨な感じになってきますね。マルチだと知らないままに仲間となり、片足を突っ込んでいたというケースもたくさんあるでしょう。3か月とか1年とか付き合っていたグループの人たちが、実はマルチ商法のグループだったという」

 

マルチ商法の商品を勧めてくる人たちは、基本皆、勉強熱心です。セールストークの内容が、心をつかまれるかどうかはさておき、すごい「熱量」を放ってくるような……。その背景を、ズュータンさんはこう説明します。

 

ズュータン「一般の会社でも営業職を考えれば同じだと思うのですが、何かを売ろうと思ったら、自分がそれを心からいいと思っていないと人に勧められませんよね。また、自分のやっていることを肯定したい気持ちもあると思います。そしてマルチ商法の場合は、マルチビジネスとこの会社の商品やシステムは人を幸せにするという理念が混ざり合い、強い信念となる。もしかしたらマルチで大儲けしている売り上げ上位の人たちは、本音と建前を上手に使い分けているかもしれませんが、大変な労力が伴う下位の人たちはこの信念がないとやっていかれないのではないでしょうか」

 

そのようにして出来上がった「強い信念」も、人間関係を崩壊させる理由のひとつです。

 

ズュータン「家族や身近な人がハマった場合、マルチに同調しないとこちらが人として認められないような感じになってしまいます。親子だろうが友だちだろうが夫婦だろうが。それまでは色々喧嘩をすることがあっても、話し合えば和解できるような普通の人間関係・付き合いだったのに、マルチ商法にハマるとこちらもその世界を信じるフリをしないと会話もうまく進まないし、相手から認めてもらえない関係になってしまう。そうなると一緒にいても安心できないし、自分の存在って何だろうと考えてしまう。人間関係が歪んでくるんです。マルチ商法二世の人たちは、家庭内がそんな感じで苦しんでいる人もいるだろうし、逆に関係を良好に保つために親と一緒になって信者の道を歩む人もいるでしょう

 

有名企業は金儲けのために、安い原料で体に悪い商品を平気で売っていると主張するネガティブ・キャンペーンや、ワクチンをはじめとする医療は人口を減らすための陰謀だとか(だから自然なこの製品を使おうね!と誘導される)、荒唐無稽なお説ももれなくついてまわるのも、「マルチあるある」です。マルチ商法とトンデモの親和性は、とても高い。

 

ズュータン僕が見てきたマルチ会員のSNSでも、陰謀論に関するトピックスをリツイートしたりシェアしていたり、そういう方はすごく多いです。最近では、お母さんが陰謀論にハマった人から連絡が来て、反ワクチンのためのデマや俳優の三浦春馬さんがCIAに殺されたという話を信じこんでいるなんて相談もありました。「お母さんが陰謀論を信じたきっかけはわかりますか? 誰か介在していませんか?」と聞くと、どうも20年ぐらい付き合っている地元のボス的な存在の女性で某マルチ商法の会員でした。これと同じように、マルチ会員を介して陰謀論を信じていたケースが他にもありました。昔から、マルチ会社の製品の良さを伝えるセールストークとして、他の会社は金儲け主義で体に悪いもの売っているとか、政府の陰謀だとかのトークは定番です。それは自社製品の魅力をアピールし、売り上げを得るためには、その説を信じないと成立しない世界だからなんですよね。そして、マルチ製品が良いというのも陰謀論も、どちらも「目覚めた」という感覚を与えるので相性がよい。スピリチュアルも同様です。だから彼らとしては必要があって、理由があって陰謀論者になっている。マルチと陰謀論。全く別のもののように見えますが、実はつながっています

 

勧誘で新規会員を増やさねばならないシステム自体も人間関係にヒビを入れるうえ、荒唐無稽なトンデモを信じないと成り立たない世界。一般社会から引き離され、コミュニティに依存せざるをえなくなるしくみもやっかいな点のひとつです。実際、一度ハマるとひとつのマルチ会社から退会しても、困難が付きまとうよう。

 

ズュータン「マルチ商法的な価値基準から抜けられなくなるんですよね。スピリチュアル詐欺やトンデモ健康法なども同様ですが、思考のOSみたいなものがガラリと変わってしまい、一般常識とはかけはなれたおかしなものを信じやすくなってしまう。だからひとつのものから抜けても、結局他の似たようなものにハマってしまう。僕に話をしに来てくれる脱会者の中には、今は健全な生活をしているケースが多いものの、マルチに関わったことをものすごく後悔し、今でも苦しいと話す人がいます。どうしてあんな物に引っかかってしまったのか、友人をおかしなものに勧誘してしまったのか、変な人たちに操られていたのか。朝や夜にそういったことが頭に浮かび、自分への失望で苦しくなるのだとか。中には、いい勉強になりましたみたいな前向きなコメントを口にする脱会者もいますが、そういう人は多分家族がマルチで作った借金を返しているなど、周りが苦労して尻拭いをしているものの本人は反省していない可能性もあるとみています」

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