再び学校へ
いじめっ子から友達に
「学校へ通えるようになったのも空手のおかげです」
数ヶ月の不登校期間を経て、再び学校に通うことを決意した大ちゃん。事情を知っている道場の師範に学校へ行くこと告げる。その時、師範とある約束を交わす。
「今までいじめてきた子どもたちに、自分から挨拶するように言われました。初めは気まずかったですね。いじめていた相手が毎日、自分から挨拶してくるわけです。最初のうちは『なんだコイツ』そんな反応でした。でも、それを続けているうちに、いじめっ子の一人が家に遊びに来るようになりました」
その時大ちゃんの父親は、やられたらやり返すという考え方をとうに捨てていたので、純粋な疑問から彼に「どうして遊びに来てくれたのか? 」と尋ねる。
彼はその問いに「大ちゃんと遊ぶのが楽しいと思ったから」と返したのだそう。彼がいうには、そもそも初めから、大ちゃんを嫌っていたわけでもなく、いじめてもいない。喋ってみたら楽しかった。楽しいから、遊びたいから、遊んでいるのだと。
「言われてみれば、彼に何かされたというわけではありません。彼はいじめに加担していたわけでもなく、ただ僕と接点がなかっただけ。『他の奴が、大ちゃんを嫌っていようが関係ない。俺の友達だから。遊びたいから遊ぶ』そう言ってくれました」
そのうちに彼は、他の友人も連れてくるようになり、大ちゃんの友達は増えていく。中には大ちゃんをいじめていた子もいたそうだ。
「びっくりしました。まさか、自分をいじめていた奴を連れてくるとは思いませんから」
挨拶がキッカケで実際に喋るようになり、距離が縮んだことで、相手のことも見えてくる。
「喋ってみたら楽しくて、これまでされてきたことも何故だか、許すことができました。親父も今まで僕をいじめていた子が来ても『いじめていたんだから来るな』とは言いませんでした。みんなと仲良くなれたことを一緒になって喜んでくれました」
このことがキッカケで、友人も増え、友人に誘われて苦手だったサッカーを習うことに。
「やっぱり、球技はダメダメで。全く上手くはなりませんでした(笑)」
そう笑う大ちゃんだが、サッカーは卒業するまでの2年間続けたのだそう。勝つことだけが全てではない。空手でそれを学んだ大ちゃんは、苦手なサッカーを純粋に楽しむことができたのだという。この後、進む中学校では野球部に所属することになるというのだから驚きだ。
中学に入学、そして高校へ進学。ここから大ちゃんの本格的な空手家人生が始まる。
大ちゃんが柔道整復師になるまで、そして、念願の空手教室を立ち上げるまで。
今後の大ちゃんのお話は、後編で。

